不断の努力と普段の努力

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(論文レビュー) (実践) 語彙ノートの使用を促すために (Dubiner, 2017)

Dubiner, D. (2017). Using vocabulary notebooks for vocabulary acquisition and teaching. ELT Journal, 1-11. doi:10.1093/elt/ccx008

のまとめとそれをどう自分の文脈に落とし込むかと考えた記録です。

研究概要

 先行研究で,語彙ノートを作成することは,受容語彙知識(英語→日本語),発表語彙知識(日本語→英語)をつけることに役立つとされています。また,語彙ノートを作成することで学習の自立(independence)を促すことや,積極的な態度を育成することに寄与することが言われています。

 実験参加者はイスラエルの大学3年生(教員志望)13人で,語彙ノートを作成しました。

目的は

  1. 語彙知識として残るかを検証すること
  2. と語彙ノートの作成が学習方略として良いものかを内省してもらうこと

でありました。なお,大学の授業の中で行われているもので,授業の評価対象ともなっていました*1。 学生たちには授業内外で出会った新出語彙を選んで書くよう指示されています。つまり,全部書きなさいという指示ではありません。

 学期の最後に,語彙の記憶を保持しているかという検証がなされています。ここでは,(レベル1)覚えているか否かをチェック;(レベル2)朧げながら覚えているいるかをチェック;(レベル3)訳を書けるか,あるいは説明できるかをチェック(受容語彙知識);(レベル4)文で使えるかチェック(発表語彙知識)というように,語彙ノートに書いたものが,どれ程度の知識レベルになったかを測定しています。また,学生自身で振り返りを行い,またインタビューを受けています。

 結果は,レベル1,2よりもレベル3,4に達しているボキャブラリーの方が多いという結果になりました(ただし,レベル1はレベル2よりも数が多い)。また評価があるということで外発的に動機づける効果があるのではないかなどという分析がなされています*2。また振り返りにおいても,ポジティブな感想が得られています。教える立場から‘I saw what it did to me so I want it for my students’ and ‘I want my pupils to have such an experience too (p. 9)’というコメントもありました。よって,良い方略としても捉えられていることがわかります。

自分の文脈に落とし込むために

 自分の指導の立場でも語彙ノートを利用できないかなと思っています。私は高校教員ですので,家庭学習をしっかりさせたいという想いがあります。そんな中で先日,外国語教育メディア学会 関西支部 中高英語教育研究部会というところのセミナーで,大阪府立鳳高等学校の溝畑先生がある実践を示してくださっていました。

 それは,コミュニケーション英語の素材を使って,復習としてのフレーズリーディングシートを英語フレーズと対訳に分けてノートに貼るというもの。

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 ノート左の英語フレーズの方は,その横に定着させたい語彙の意味を書いたり,フレーズや例文を書いたり(文法を復習したり)するというものです*3。ノート右には対訳をみて思い出しながら,英語を書くというもの。こうすることで家庭学習で辞書を引いてもらい,朧げな知識かもしれない語彙を復習することができます。さらにテスト前の復習にも使えるということで素晴らしいと感心したものでした。

 教科書には新出語彙は載っていますが,それ以外が生徒たちにとって既知なのかと言われればそうではないでしょう。ですので,こういった形で自主的に調べてもらい,ノートを作ってもらう,それを評価に入れることでがんばりを認めるという形はどうかなと考えてみました。なかなか一から語彙ノートを作れというのは難しい話ですが,こういうリーディング教材の中のチャンクリーディングを再利用することで,学習のハードルを下げることが可能なのではないでしょうか。 これで知識定着に学習方略の定着,モチベーションアップにつながれば,万々歳なのですが,さてどうでしょうか。

*1:"[S]tudents were encouraged to keep a vocabulary notebook with them at all times, which was one component of their grade on the course. (p. 4)"

*2:言語習得と絡めて,Output, noticing, attention,など書いてありますが,こじつけ感があると思ったので読み飛ばしました。

*3:余談ですが,[T]he translation or definition should not be written next to the entry.The rationale for this is that due to stronger automaticity in L1, reading the L1 translation before the L2 target word cannot be suppressed (Timmer, Ganushchak, Mitlina, and Schiller 2014). と本文にはあります(p. 4)。ただしDubiner (2017)では対象が教員志望とありますが,このブログの管理人は普通科の高校生を指導する立場にあります。ですので日本語と英語の結びつき+フレーズなどで落とし込むのがベターなのではないかと思いました。

(教育実践)授業改善のツールとしてのルーブリック

ルーブリックについては,

www.justsystems.com

関西大学の黒上先生の解説が実践者にはわかりやすいかと思います。

概要

 2年連続で同じ科目を担当して,去年度の反省を踏まえた上で行った実践報告です。行ったこととしては,パフォーマンス課題の中でルーブリックを導入した,それだけのことです。実は恥ずかしながら,2015年度の時点ではルーブリックのことは知っていたのですが,その実用性には気づけていませんでした。ですが,ルーブリックを導入してみると,生徒にとっても,教員にとってもポジティブに働くことがわかりました。

背景

 高校1年を対象としたコミュニケーション英語Iのうち,4単位ある中の1単位をALTとのTTに当てており,その中でパフォーマンス課題に取り組んでもらいました。パフォーマンス課題としては,ALTへのインタビューやディベート(アカデミック)といったものです。その中で例としてディベートを取り上げます。昨年度,特に課題だなと思ったのがこのディベートで,2ヶ月ほど費やして準備をしたのですが,生徒は頑張っていたものの,その時間に見合ったプロダクトを出すことができませんでした*1。そこで,まず原因を考えてみました。

  • 反駁の練習が十分にできていなかった。
  • 発言者の声が不明瞭で何を言っているのか理解できないケースがあった。
  • (アカデミックなのに)十分な準備をできていないチームがあった。
  • チームで行うものなのに,一部協力できていないチームがあった。
  • 結局本番のディベートは1回しかできていなかった。

などなど。

改善のために

 ディベートは言語活動の中でも非常に高度なものなので,学期の最後の方で行うのが良いかなと思うのですが,こうした反省を踏まえて,昨年度はついていくだけだったのですが,今年度当初に私が主となって,バックワードデザイン(もどき)で高度な言語活動に向かうための準備をするためにどのようなことをするべきかを考えました。

  • ペアでの英語チャットの時間を充実させる。(ウォームアップ)
  • パフォーマンス課題の中に質疑応答を組み込む。
  • それを繰り返し,体験させる。
  • ルーブリックを作り,生徒に事前提示することでゴールを明確にする。

 最初は,個人レベルから始め,Show & Tellのような活動,徐々にチームワークの必要なパフォーマンス課題を用意するようにしました。また,ディベートについては,2回実施し,慣れを作るよう努めました。ちなみに,なぜルーブリックを事前提示するのかといえば,それが学習者が目標を理解して学習に向かうことにつながりそれが,パフォーマンスの向上,ひいては内的動機づけを高める可能性があるからです (鈴木, 2011) *2

成果(?)

 生徒の声はアンケートや質問紙で詳細にとったわけではありませんが,評価基準の中に数字を混ぜる(何文以上,何分以上)ことで,生徒も明確に目標を持って準備をすることができたかと思います。実際に聞いてみると,基準が書いてあるので,計画的に取り組むことができたという声がありました。評価に関してもルーブリックがあると,納得してもらうことができたみたいです。本当は,プレとポストでスピーキングの熟達度が上がったなど,テストをしても良いのでしょうけど,今回はそういう実験ではないので。。。

 実際のものはお見せできませんが,ルーブリックを作ることで教員間の共通認識を確認することができました。例えば,パフォーマンスに向かう際にはきちんと暗記して臨ませるとか,そういうごくごく単純なことですが,実はえっそうなの?みたいなことが以前あったもので...こういうのはきちんと提示し,教員間で評価「基」準は明確にしておくと後々評価の信頼性を高めることにもつながると思いました。また,評価「規」準の数も大事で,基本は3つに絞りました。でないと付ける方も大変ですからね(例えば,内容・表現方法・チームワークといった規準でつけました。)。

 

課題

 ルーブリックは,「基」準を作るのが難しいです。実際やってみると,こちらが用意した基準を易々と超える生徒たち(喜ばしいことですが),逆に全然届かない生徒たちがいたりして,実態に即して改善の余地がありそうです。また,教員間でのミーティングが不可欠ですが,それが上手く確保できずコミュニケーションが取れない場合がありました。特にALTは常勤ではなかったので,その辺りは苦労しました。ですので,自分たちが今年度作ったものをうまく来年度に引き継いでブラッシュアップしていただければなと思います(自分が来年度も担当する可能性もありますが)。

 

お読みいただきまして,ありがとうございました。

*1:補足すると,展開授業で2週に1回がTTの授業なので,TTの回数自体そもそも少ないのです。

*2:鈴木雅之 (2011) ルーブリックの提示による評価基準・評価目的の教示が学習者に及ぼす影響 ー テスト観・動機づけ・学習方略に着目してー 教育心理学研究, 59, 131-143.

(読書記録)高校生は中学英語を使いこなせるか? 金谷(編)(2017)

金谷憲(編)(2017)『高校生は中学英語を使いこなせるか?』アルク

総計5,000人ほどを対象とした調査で,速読,リスニング,ディクテーション,和文英訳,Picture descriptionを用いて,中学の英文法の知識が「定着」しているかをまとめています。

結果は察しがつくかと思いますが,定着しているとはとても言えない状況です(それも熟達度や学年にあまり依らず)。殊にまとまりのある文章まで作るところまでは全然至っていない,と。

一例ですが,面白かったものとして和文英訳の誤答分析を挙げてみます。スペルミスや冠詞のエラーは多分に漏れずですが,

英作で誤りの多い構文の例として

1. 後置修飾を含む名詞句が主語の文

2. 必要以上に複雑な構造を使用する

3. 「〜がある」におけるThere be構文の乱用

というのが紹介されていました。(pp. 99-103)

経験的にこういうことは分かってくるのかと思いますが,私のような経験の浅い先生だとなかなか気づかない部分もあり,生徒がどういうところでつまずく可能性があるのかを知る上で示唆に富んだ面白い本でした。

プラスαあれば面白いな,自分でやってみたいなと思ったのは,測定された技能がリーディング・リスニング・ライティングでスピーキングがなされていないので,それをやってみるといあことです。Picture descriptionはよくスピーキングでも使われている題材ですし,外部試験でも使われています。ただ,分析が煩雑になるでしょうが…

実際に調査で使われた文も載っていますので,生徒さんに力試しとしてトライさせてみても良いかもしれません。