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不断の努力と普段の努力

英語,研究,教育実践,読書記録,ヴィオラのこと。ヴィオラのような人を目指しています。

(研究)教育改革先取り対応セミナーに参加しました

研究

教育改革先取り対応セミナー 大阪会場に参加してきました。

 

基調講演は「高大接続システム改革」について。以下の文科省のページが参考になります。

高大接続システム改革会議:文部科学省

 

残りの京大の石井先生,東進の安河内先生のご講演及びワークショップでの興味深かったところをツイートにまとめました。

 

追記: 石井先生が書かれたものでアクティブラーニングに関する解説が河合塾のサイトの方で公開されていますので,ご参考になれば。

「教育目標・内容」「学習・指導方法」「評価方法」の 一体的な高校教育改革が進む

http://www.keinet.ne.jp/gl/15/09/04_kawaru1509.pdf

(読書記録) はじめての英語教育研究 押さえておきたいコツとポイント

研究

 

はじめての英語教育研究 −− 押さえておきたいコツとポイント

はじめての英語教育研究 −− 押さえておきたいコツとポイント

  • 作者: 浦野研,亘理陽一,田中武夫,藤田卓郎,?木亜希子,酒井英樹
  • 出版社/メーカー: 研究社
  • 発売日: 2016/07/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
 

著者の先生方からご恵贈いただきました。まずは御礼申し上げます。

 

 さて,感想なのですが,一言で申しますと,

学生の時にこんな本があれば!その一言に尽きます(お世辞ではありません)。文面から察するに,(小・中・高)英語教員に向けて優しく語りかけてくれている本なのかなと思いましたが,早くから学生さんも持っておくに越したことはないです。

 

 本書が優れているのがタイトルだなと思います。この本にもタイトルのつけ方は大切だよ(p. 200あたり)と書かれていますが,2つポイントがあると感じました。

  1. 「はじめての」
  2. 「英語教育研究」

というところです。

「はじめての」

 表紙には遠慮がちに書かれていますが,この語の選択が本書の秀逸さを際立たせるものとなっています。本書はなぜ研究をすることに意味や価値があるのか,どのような研究手法があるのか,どういうプロセスを踏めば良いかというところから始まっています。研究って難しいものだと思われがちだなと現場にいてつくづく感じるのですが,この本はそこまで下りてくるかと唸るくらい大変わかりやすい例を交えながら書かれています[いると確信しています]。しかも綿密で説得力があります。

 ところで現場には,ドヤ顔で「俺が考えた最強の指導法」なるものを披露される方が一定おられますと感じます(そう数は多くないですが)。本書はそれでは単なる自己満足なんだよということを冷静に説いています。

先行研究との関係をきちんと説明することは,その研究の価値を高めることにもつながります。Uメソッドに関する論文が発表されたとしましょう。それがどれだけ優れた指導法だとしても,Uメソッドを知らない人がその名前だけでこの論文を手に取り実際に読もうと思うことはあまり期待できません。しかし,Uメソッドが,例えば「リーディング指導法のうち,田中・島田・紺渡 (2011)に基づく,内容理解をより深いレベルで行うための効果的な発問の方法」であると定義されていれば,リーディング研究者はもちろん,多くの英語教師にとってもその研究の内容がわかりやすくなるので,興味を持つ人も増えるでしょう。(p. 7) *1

「英語教育研究」

 外国語教育ではなく,英語教育という良い意味で狭い枠組みに基づいて書かれているので,現場で英語を教えておられる先生の目線に立っているということがよく伝わってきました。英語教育研究に特化しているということですが,その例も勉強になるところがあって,研究手法や問いの立て方の具体例として実際の論文の解説などが書かれていたりします。実際読んでみると,こんな研究あるんだといった学びがいくつかありました。例えば...

伊達 (2015) は,タスクを繰り返す練習を行うことで,学習者の発話の流暢さと正確さが向上するかどうかを調査した。日本人大学生45名を対象とし,学習者を3グループに分類した。グループ1の学習者は,同じ内容の物語描写タスクを2回遂行する練習を,週1回4週間行った。グループ2の学習者は,異なる内容の物語描写タスクを2回遂行する練習を,週1回4週間行った。グループ3の学習者はタスクの練習は行わず,プレテストとポストテストのみを受けた。その結果,タスクの違いによって練習の効果に差が見られた。同じタスクを遂行したグループは4週間後に流暢さと正確さの両方が向上したが,異なるタスクを行ったグループは流暢さの向上は見られず,正確さのみが向上した。(p. 140)*2

 また,書き方に関してもこういう風に先行研究をレビューしていけばいいんだなということで勉強になります。 

 

 もちろん「はじめての」でない人にとっても,研究に対する考え方を整理することができると感じました。特に私は研究に関する本を恥ずかしながらあまり読んでおらず,論文や他の方の学会発表を見て経験的に朧げながら学んできましたが,その経験的に学んできたことが文字化されていて「あっ,なるほどな」と思う部分が随所にありました。先行研究から研究テーマを考えるという項目がその例です。

研究テーマに基づいて行う先行研究の検討は通常,次のプロセスをたどります。

 (1) 選定したテーマが,英語教育研究ではどのような切り口で扱われているのかを把握する

 (2) これまでの研究で何が調査されてきたか,これまでに何が判明しているのか,また何がわかっていないのかを検討する

 (3) これまでの研究の問題点 (理論的欠如,方法論的問題等)を検討する

(p. 25)

一つのマニュアルとしてこれからしばらくお世話になることでしょう。

 

 ということで,いくつか例を列挙しながらご紹介しましたが,他にも質的・量的研究のこと,先行研究・課題の探し方,結果の公表の仕方など,丁寧に丁寧に書かれています。現場の人間にとっては,多忙さという問題は依然として残されているわけですが,それ以外に研究を始めるにあたって考えられる問題は,この本によって解決されたのではないでしょうか。

*1:

 

推論発問を取り入れた英語リーディング指導―深い読みを促す英語授業

推論発問を取り入れた英語リーディング指導―深い読みを促す英語授業

 

 

*2:伊達正起 (2015). 「タスクを繰り返すことで言語形式に関する知識の手続き化は起こるのか?」『中部地区英語教育学会紀要』第44号, 1-8.

(論文レビュー) コロケーション処理における繰り返しの効果 (Szudarski & Conklin, 2014)

研究

Szudarski, P., & Conklin, K. (2014). Short- and Long-term effects of rote rehearsal on ESL learners' processing of L2 collocations. TESOL Quarterly, 48, 833-842. doi:10.1002/tesq.201

のまとめです。

概要

 この論文の研究課題は2点でした。

コロケーション学習における

①rote researsal(機械的に心の中で復唱すること: 以下RR)の効果の検証,具体的にはRR群とRR+群(例えば,目標語に下線を引いて目立たせる方法[input enhancement])群(処置群),対照群の比較

②頻度の差が及ぼす学習効果の違い

です。

 

 参加者はポーランド語を母語とする英語学習者26人で語彙サイズとしては平均して5,000語レベルの語彙が理解できる学習者たちでした。

 コロケーションは形容詞ー名詞コロケーションと動詞ー名詞コロケーションが用いられ,その中でも頻度の高いものと頻度が低いものが採用されました*1

 測定方法は,コロケーション判断課題(それが正しいコロケーションの組み合わせなのかを判断する課題)が使われ,その反応時間と誤答率が測定されました。測定は学習直後のテストと6週間後の遅延テスト,2回がなされ,短期記憶だけでなく長期記憶も測定されたかっこうです。

 結果は指導の効果としては,処置群は短期的には効果があるものの,長期的にはその効果はなくなることが分かりました。ただし,RRとRR+とではほとんど差がないという結果になりました。また,頻度が高いコロケーションほど,反応時間が短く正答率が高くなるという結果になりました。

 また全体的な傾向として,動詞ー名詞コロケーションは指導の効果が薄いということが主張されています。理由としては学習したコロケーションのcongruency(そのコロケーションが直訳で訳せるものか否か)にあるということが主張されています。

 詳しくは以前書いたこちらの記事をご参照ください(Peters, 2015)。


(論文レビュー) コロケーション学習に影響を与える要因について (Peters, 2015) - 不断の努力と普段の努力

感想

 結果としては,予想通りでかなりわかりやすい結果でした。個人的には熟達度によって,学習されたコロケーションに際して理解度に差が見られるのかなというところに興味があります。また,この研究では反応時間を用いた研究つまり理解できたかできなかったのかに焦点が置かれているので,母語から外国語に翻訳できたのかというような語彙知識の発達の面に興味があります。いかんせん一回の学習でそこまでの語彙発達は見られないと思いますので,本論文でも

[I]t appears that L2 collocational knowledge should be consolidated and recycled soon after it has been acquired if it is to be retained for longer period of time. (p. 840)

 と言われています。この部分には大変興味が持てます。

*1:それにプラスして具体的な各コロケーションの記述はないのですが,Mutual Informationが統計指標として用いられました。