考査が近いということで,心理学の知見から学習に関することを研究紹介も交え,紹介してみました。*3回のスライドを1か所に固めて再編集しました。
(読書記録) できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (シルヴィア, 2015)

- 作者: Paul J. Silvia
- 出版社/メーカー: Amer Psychological Assn
- 発売日: 2007/01/15
- メディア: ペーパーバック
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の翻訳である

できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)
- 作者: ポール.J・シルヴィア,高橋さきの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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を読了しました。 翻訳はタイトルがややビジネス的で残念ですが,中身は大変面白かったです。
いくつか大事だと感じたところをまとめてみますが,当たり前のことを当たり前にやることの大切さを突きつけられます。実に痛快です。なお,シルヴィア先生は心理学の研究者ですので,他の領域でどこまで応用可能かは想像がつきません。ご容赦いただきますよう。
目標を設定する (p. 34)
- 具体的に書くこと (週に何時間やるか,何日やるか,何ページ,何語書くか)
- 「一気書き」(binge writing)にならないこと!
孫引きですが,Boice (1990)が面白かったです。具体的には,「どうしてもというときのみ執筆」「気が向いたときに執筆」「書かないとペナルティ」というように大学教員を分け,どれだけ書けるか,アイディアが浮かぶまでに要する日数を測ったところ,「書かないとペナルティ」群が合計で一番書く事が出来,アイディアが浮かぶ日数も少ないという結果でした。つまり,アイディアは自然と降りてくるものではなく,ハードワークしているからこそ,降りてくるものだという話でした。
優先順位をつける (p. 38)
-> 校正,といったワードは研究ならではですが,日常生活にも確実に活きることです。締め切りを意識して,「一気書き」にならないように。
進行状況を監視する (p. 45)
シルヴィア先生はSPSSを用いて,データで見える化をしているようですが,エクセルでもヒストグラムなど書けるので,こういうやり方もあるんだなぁと。
- 進行状況を監視しつつ,目標を達成できていればご褒美を (p. 50)
- スランプは言い訳に過ぎない! (p. 51)
- 本を書くときにも同じように。章ごとにページ・ワード数・第1校,第2校などの進捗状況を記述する。
論文を書くために,書く練習をする
- カッコつけた語彙を選ぶ必要はない。
- すっきりとした文を心がける(セミコロンの使い方など勉強になりました)。
- まずは書く,後で直す (p. 92)
- アウトラインを作成し,どのようなウェイトを置くかを考える (p. 99)

The Elements of Style, Fourth Edition
- 作者: William Strunk Jr.,E. B. White
- 出版社/メーカー: Longman
- 発売日: 1999/07/23
- メディア: ペーパーバック
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↑紹介されていたモノの中で個人的に,この本はmustです。
査読返信について
- 「それぞれの修正箇所については,3部構成で説明しよう。まず,コメントや批判点を要約し,次にそのコメントに対して自分がどう対処したかを説明するが,その際には,できるだけ原稿のページを具体的に記載する。最後にその対処によって,コメントの内容がどう解決されたかを書く。(p. 118)」
その他 (上記を達成するにあたって)
- 「スケジュールを立てる楽しみ」が生まれる (p. 152) -> 人生を楽しめる!
- 「望みは控えめに,こなす量は多めに」 (p. 154)
- 「執筆は競争ではない」 (p. 155) -> 自分がどうするか,だけの問題。
気持ちの良い読了感でした。忙しい,「書く時間がとれない」「もう少し分析しないと」「もう少し論文を読まないと」などなど言い訳をしたら,ペナルティを課そうと思います...。
(論文レビュー) 効果的学習方法の二大巨頭Retrieval practice・Spaced practiceについて
Putnam, A. L., Nestojko, J. F., & Roediger, H. L. (in press). Improving student learning: Two strategies to make it stick. In J. C. Horvath, J. Lodge, & J. A. C. Hattie (eds.), From the laboratory to the classroom: Translating the science of learning for teachers. Oxford, U.K.: Routledge.というブックチャプターからの紹介です。
以下のRoediger先生のページからダウンロードができます。
現在(2016年現在)で最も効果的であると言われているのが,
Retrieval practiceとSpaced practiceというものです。
一言で言えば,
・Retrieval practiceというのは思い出すことを伴った学習(例えばテストをすること)で
・Spaced practiceというのは間隔を空けて行われる学習のこと(例えば前の学習から2,3日置いて学習すること)です。
またその2つをまとめたものをDistributed practiceといいます。
このブックチャプターはその2つの研究動向をまとめたレビュー論文になります。全部をまとめると膨大な分量になりますので,個人的に興味を持った部分をまとめてみます(訳しているわけではないので,そのあたりはご容赦ください)。
Retrieval practiceについて
・勉強をする際に,勉強したことを読み直すことがよく行われるが,retrieval practiceを行った方が効果的。また何度も読み直すことは,過剰な自信を生み,勉強した気になってしまう(Roediger & Karpicke, 2006)。
・学習していることを考えて思い出すだけでも効果がある(Putnam & Roediger, 2013)。
・フィードバックにより思い出させるのも良い方法で,間違った問題の記憶を強化するだけでなく,自信がなくて正解したものの記憶も高める効果がある。(Butler et al., 2007, 2008).
・フィードバックのありようは,答えを示すだけのシンプルな方が良いかもとメタ分析では言われているが(Bangert-Drowns et al., 1991),詳しく説明した方がシンプルにするよりも良いのではという研究もあり,議論の余地がある(Butler et al., 2013)。
・テストをすることによるretrieval practiceはメタ認知にも働きかける。つまり,学習者は何がわかっていて,何がわかっていないかに気づくことができる。
・授業中にクイズを出してretrievalさせると,記憶を強化するだけでなく,授業に集中しやすくなる。
Spaced practiceについて
・集中学習(massed: 短い間隔で行う学習)も分散学習(spaced: 長い間隔で行う学習)の方が良い(e.g., Bahrick et al., 1993)。
-> middle-schoolでの実践もあり(Sobel et al., 2011)。
・記憶をキープしたい日数によって,最適な学習間隔があるかもしれない(Cepeda et al., 2009)。(例えば,1週間キープするなら,1日置いて学習する)
-> 反復するにしても,日を置いた方が良いですよということ。
あとは最後のまとめの部分,現場で活かすならという方法が紹介されています。ざっくりまとめると... (pp. 115-116)
Retrieval Practice
- フラッシュカードを用いてretrievalを促す。
- 読んで,暗唱させて,何ができて何ができなかったをレビューさせる。
- 授業の最初や最後にクイズを入れて,記憶を高める。評価にも入れる。
- Retrievalの方法として,発問をしてから少し間を置いて指名する。
- オンラインでの学習にクイズを混ぜる。
Distributed (Spaced) Practice
- 前回の復習を授業の最初に入れる。可能であれば,少し間を空ける。
- 宿題に過去に行ったものを混ぜる。古いものと新しいものが入っていることが望ましい。
- 間隔の開け方を工夫する
- – One-day spacing is good for 1 week of retention.
- – One-week spacing is good for 2 months of retention.
- – One-month spacing is good for 1 year of retention. (e.g., Cepeda et al., 2009)
- クイズ(retrieval practice)を間隔をあけて実施する -> distributed practice. テストも過去に行ったことを上塗りで行っていく。
このあたりは目新しいことはないですが,頭には留めておきたいことですかね。
このあたりの研究ですが,まとめの本としては

- 作者: ピーター・ブラウン,ヘンリー・ローディガー,マーク・マクダニエル,依田卓巳
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2016/04/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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がおすすめです。
ちなみに,原著はこちら。

Make It Stick: The Science of Successful Learning
- 作者: Peter C. Brown,Henry L. Roediger III,Mark A. McDaniel
- 出版社/メーカー: Belknap Press
- 発売日: 2014/04/14
- メディア: ハードカバー
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余談ですが,この手の記憶に関する研究に興味を持ったきっかけがこの本でした。翻訳が出て手軽に読めるようになったのは悔しいですが,この手の研究がもっと一般的になれば良いなとも思います。