不断の努力と普段の努力

英語,研究,教育実践,読書記録,ヴィオラのこと。ヴィオラのような人を目指しています。

(論文レビュー) コロケーション学習に影響を与える要因について (Peters, 2015)

Peters, E. (2015). The learning burden of collocations: The role of interlexcal and intralexical factors. Language Teaching Research. Advance online publication. doi:10.1177/1362168814568131*1

のまとめです。

概要

 この研究では,コロケーション(2語以上からなるお決まりの表現)学習において構成されている語と学習者の語彙サイズが学習にどのように影響を与えるかが比較されています。

観点は大きく4点。

  1. 語彙の意味の観点。ここでは母語と外国語が字義通りの意味になるもの(以下,congruent)と字義通りにならないもの(例えば,「努力をする」という表現はmake an effortというように,動詞の「する」という表現からdoとはならずmakeになるようなもの [以下,incongruent])の比較。
  2. コロケーションのつながりの観点。3タイプ(形容詞ー名詞 perishable goods,動詞ー名詞exceed the budget,句動詞[動詞ー不変化詞 upやoff]と名詞 run up a deficit)の中でどのコロケーションが学習されやすいか。
  3. 語の長さの観点。すなわち構成する語が長ければ長いほど学習されにくいのではないかという疑問。
  4. 学習者の語彙サイズの観点。つまり学習者が語彙を多く知っていれば,コロケーションは学習しやすいのかという話。

また,1と2に関してはその要因に対する交互作用があるのかも併せて見ています。

 

 さて,この先行研究として,学習者はincongruentのコロケーションをcongruentのコロケーションよりも正しく認識することができず,また正しく産出することができないことが示されています。その原因として,「努力をする」の「する」という語から,学習者はmakeを思い浮かべることが困難だからということが示されています。換言すると,母語がこのincongruentのコロケーションの学習を妨げているというわけです。この研究の意義深い点としては,これから学習するコロケーションの中で(in)congruentを比較するとどのように異なるかを探求したことだと私は思っています。

 マテリアルとしては,コーパスや辞書などから抽出したもので,congruent 形容詞ー名詞(3コロケーション)/incongruent 形容詞ー名詞(3コロケーション)というように計18の英語コロケーションが選ばれています。これは大事だと思ったのですが,名詞の部分(node)は学習者が知っていると思われる語を用いています。逆に,形容詞・動詞・句動詞は学習者が知らないであろうものが使われています。恐らく,学習をスムーズに行うためのものでしょう。まとめると,未知語ー既知語のコロケーションがマテリアルとして使われ,そのコロケーションがcongruentとincongruentに分かれているというわけです。

 学習者は,ドイツ人大学生EFL学習者43人で,そのうちの34人が3,000語レベルの語彙を理解していることが事前テストから判明しています。

 手続きとしては,まず事前テストでコロケーションの知識がないことを確認してから,学習を行い,直後テストが行われました。遅延テストはその目標コロケーションが再度学習されるのではないかということでなされていません。

 学習は,ワードリスト(コロケーションとその意味が示されたもの)を用いて行われ,学習方法として,目標コロケーションの同義語などが示されるセッションと文章を読んで穴埋めをするセッションが行われています。

 またテストに関しては,(a): 母語(ドイツ語)から英語に翻訳させる課題,(b): (a)と同じだが,node(名詞)がヒントとして提示された状態の課題,(c)提示された形容詞・動詞・句動詞から正しい名詞を選ぶ課題(多肢選択式)が実施されています。

 

 結果に移ります。

 観点1については(a)(b)のテストで,incongruentのほうがcongruentよりも成績が悪いという結果になりました。

 観点2については形容詞ー名詞のコロケーションが,動詞ー名詞コロケーション・句動詞ー名詞コロケーションよりも学習がし易いことが分かりました(動詞と句動詞の間の差はほとんどなし)。また,1と2の関係性を見たところ,congruent 形容詞ー名詞コロケーションが一番学習が容易で,incongruent 動詞ー名詞コロケーションが一番学習が困難であることが分かりました。また,congruent 動詞ー名詞コロケーションもcongruentであるにも関わらず,学習効果が薄いということが示されました。

 観点3,4については,語が長いほど学習が難しく,学習者の語彙が多いほど学習が易しくなることが分かりました。

感想

 コロケーションの中でも,incongruentであるものが学習時点が難しいということが示されたということは大変興味深い結果でした。また,その中でも動詞ー名詞コロケーションの学習が難しいというのも面白いものです。概要では端折りましたが,動詞ー名詞コロケーションの難しさとして,動詞が屈折すること(-[e]s,-ed),動詞と名詞の間に形容詞が挟まることが挙げられていて,なるほどと思いました。

 また,本質ではないかもしれませんが,句動詞の習得も難しいですね。というのも,この論文で使われた句動詞の動詞と不変化詞の組み合わせは明らかに学習者が知っていそうなもの(cf. 動詞は学習者が知らないもの)にも関わらず,実験ではコロケーション*2を産出できないという結果だったわけです。この手の研究も面白そうと感じた次第です。

 個人的には,遅延テストがある*3とまた得られる知見があるでしょうし,nodeが名詞ではなく,形容詞や動詞,句動詞であると結果はどう変わるのかなと気になったところです。

*1:2015/02/22現在のもの。書式は


APA Style Blog: Advance online publication を参考にしています。

*2:ただし,私はこの句動詞ー名詞コロケーションという用語の扱いには疑問を持ちました。というのも,筆者はコロケーションの定義としてコロケーションはfree combinationとイディオムとは区別していますが,句動詞ー名詞のコロケーションの名詞を見る限り,これはコロケーションとは言えないのではないかと思うのです。もっと突っ込んで言えば,筆者はコロケーションの定義について,語法(フレイジオロジー)的立場を取っています。このコロケーションの定義に関して言えば,大きく語法的立場と統計的立場というものが存在するのですが,筆者は前者を選択しています。ただし,応用言語学の文脈で言えば,後者の統計的立場を取るものが多く,先行研究でもその立場を取っていると思うのですが,なぜ前者をとったのか判然としません。私としては,その文脈に併せて統計的指標(t-scoreなど)をとった上で,これがコロケーションであるという主張をして欲しかったなと思います。

*3:実際のところ本論文の筆者,Peters先生は2014年のLanguage Teaching Research論文で,実際に遅延テストのタイミングが学習にどう影響を与えるかを検証しています。