不断の努力と普段の努力

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(論文レビュー)リアクションペーパーを用いた高校英語における授業改善(河田, 2012, 2014)

河田浩一 (2012)「英語学習者の自律と動機づけを促進する方法ー質的調査を通して動機づけを促進する探究的実践ー」『中部地区英語教育学会紀要』41, 229-234.

河田浩一 (2014)「質的調査を通して「教室生活の質」を高める探究的実践」『中部地区英語教育学会紀要』43, 311-318. についてのまとめです。

2017年9月現在,J-Stageなどでオープンアクセスとなっていないのですが,とても良い論文だと思うので,簡単にまとめておきたいと思います。

論文概要

 論文の趣旨としては

教室で何が行われているかについて理解を深めることにより,教室生活の質の向上に努め,学習者の動機づけを促進させる」ことを日標として取り組まれた(河田, 2012, p. 229)。

となっています。教室生活の質の向上というのは,教員・学習者それぞれ何をしているかを捉え,それを理解し,授業・人間関係をよりよくするところにあります。

 河田 (2012, 2014)では,学習者の実態を把握するために「リアクションペーパー」(RP)を用いています。またリアクションペーパーとは,授業の振り返りのツールとして用いられるもので,河田先生のRPは「今日の授業でわからなかったこと・わかりにくかったこと・もっと知りたいこと・何でも書いてください」という形で学習者の理解度とつまずきを捉えるという形で実施されました。RPは一片10cmほどで特に記名はなされていなかったようです。実践は夜間定時制高校で行われましたものですが,中学校の最初の段階で躓いている学習者がいる,そんな背景がありました。

 RPでは,学習者の「分からない」に寄り添うということに主眼が置かれています。実際にこの実践では,指導者(河田先生)が思っていた以上に学習者が初期の段階で躓いているという記述が散見されます。さらに,個人的には,「一人の学習者の記述がある授業活動を生み,その授業活動がさらに他の 学習者の記述を引き出し,対話がクラス全体に広がっていく事例もあった。(河田, 2012, p. 231)」というところに大きな意味があると思います。つまり,学習者がふと疑問に思っていたことに対して,実は「私も」という学びの化学反応が起こるということです。ここにRPの大きな利点があると私は考えます。

 そして,このRPを通して,授業に対する姿勢が学習者だけでなく,授業者も変容して行ったことが書かれています。例えば,

問題演習を行っている際の学習者の取り組む姿勢・進捗状況・教師の説明を聞く際の学習者の表情,指名され答える際の学習者の言葉遣い・態度などを意識的に観察することにより,授業内容のレベルが学習者にとって適切であるか,授業活動は学習者を惹きつけるものになっているかなどを理解するよう努めた (河田, 2012, p. 233) 。

 とあります。このように,RPの記述を見る中で授業の見え方も変わってくることに私は魅了されたんですね。

 RPには好意的なことが書かれるとは限らず,無記名であるが故に辛辣なことを書かれることもあります。2014年の論文は辛辣で,ここに書くことが憚れる記述も散見されます。しかしながら,河田先生はその記述を冷静にティーチングジャーナルに記述し,どのように対応していくかを考えています。

「全部分からない」と言うコメントは, 分からないところを具体的に指摘できるレベルではないということのように思われる。しかしながら,「バカでもわかるようにしてえ!!」というコメントから,分かるようになりたいという前向きな姿勢が感じられる。 このようなコメントを寄せてくれた生徒の動機付けを保ちながら,少しずつわかるようにさせるように工夫したい(河田, 2014, p. 312 下線はオリジナル)。

記述を受け,では次にどう進んでいくか,それを考えるという姿勢が大切だと思います。そして,それを受け止め,授業を改善していく中で授業がより良い方向に変化して行った記述が続きます。結果として,最終的に(一部批判的な意見もあるが,)肯定的に受け入れられ,

教師と生徒の間に一定の関係性が築けたばかりではなく,RP導入前は集団としてのまとまりがなかったクラスが,RPでのやり取りを通して,生徒同士の間にもお互いを意識しあう視点が生まれ,次第にクラスの中に親和した雰囲気や結束性が生まれていったようにも感じられた(河田, 2014, p. 314) 。

とあります。この論文の中では,河田先生の授業に対する戦いや葛藤というものが感じられるのですが,それでいて,上記のまとめのように昇華できるところに,先生の人の良さを感じました。そして,RPを通じて学習者に寄り添うことで,テストの点数だけでは見えない,人間模様が垣間見れること,素晴らしいなと思います。

 私もRPはやっているのですが,授業の最後3〜5分でできる活動です。記述をまとめるのは大変ですが,教員もアクティブになれます。また,教えているクラスが違うと記述も全然違ってきますので,同じように教えてはいけない,学習者が出す雰囲気を受け止めて,授業をしなければという気持ちになります。さらに,こちらも授業中には気づけない気づきを与えてくれ,それが授業を変容させることにも繋がっていきます。ありがたいことです。

 RPは大学でミニッツ・大福帳などという名称でなされていますが,中等教育ではあまりなされているような印象を受けません。また振り返りをさせてそのままやりっぱなしに終わっているもの(主観ですが)が多いように思います。こうした学習者の記述に寄り添っていくこと,面白いと思いませんか。